家族への手紙

今日のブログは、少々文体が普段と違います。
コラム的に書いてみました。

マガジンハウスに、ブルータスという雑誌があるが、
見開きのページで、写真と文章で構成されているコーナーがある。
タイトルは篠山紀信の『人間関係』。

この文章が、なかなか読ませるのだ。
二十年程前に、読んで印象に残ったとある号があるが、
切り抜きを紛失したので、記憶を辿りながら紹介したい。

文章の前半は、船員への手紙という内容で始まる。
海外との輸送に従事する船員という仕事柄、
家族や恋人との、コミュニケーションは、そう簡単なものではない。
まだ携帯電話が一般的でない時代なので、情報伝達手段は、やはり手紙だ。
手紙は、飛行機が寄港先に、先回りをして届けてくれる。
船員たちは、その手紙を受取り、それぞれの個室に戻って、封を開けるのだ。
その手紙も、家族の近況をずらずらと書いた長いものもあるだろう。
また、遠く離れた海で働く、読み手の健康を案じた手紙もあるだろう。
その中で、こんな手紙の紹介があった。
妻から送られた便箋の真ん中、中央に、一言。

       『あなた』

という文字しか無い。
それを読んだ夫は、背中に羽根があれば、すぐにでも、飛んで帰りたくなるだろう。
その文書を目にした私にとっては、忘れがたい文脈であった。

確か、見開きの左ページには、写真があり、
女優の宮沢りえと、彼女の母の二人が映っていたと思う。
後半の文章は、写真の二人が会話したであろう内容のくだりがある。

『ねえ、お母さん.......。』
『...なぁに?』
『うぅん...。 何でもないの.....。』

なんという間の取り方。
この二人だからこそ、その間に、いろいろと想像されるものがある。

家族は、こんなに近くにいても、
はっきりと言葉に現さないけど、お互い分かりあえる関係があるし、
何万キロと遠く離れても、一言だけの手紙で、全てを伝え切る関係もある。

こんなエッセイを読むと、
家族への手紙も、時には形にこだわらず、
心そのまま書くというのも、ありなのかと感じてしまうのだ。


Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。